COLUMN

コラム

税務調査への対応策

税務調査官からの交渉は受け入れるべき?受け入れないべき?

税務調査の現場では、様々な項目をめぐって税務調査官との「交渉」が行われます。交渉の目的は、双方の主張が対立した時「こちらはこれだけ譲歩するから、そっちもこれだけは認めてください」という、いわば落としどころを決めることにあります。ただ、交渉をする相手は税務のプロである税務調査官で、対する経営者は経営のプロではあっても税務に関しては素人同然。うまく立ち回らないと、不利な条件を突きつけられていることに気づかずに損をしてしまう可能性もあります。

否認を認めさせるために交換条件を提示されたら?

税務調査における税務調査官の目的は何かというと、過去の申告や納税に不備がないかを探し出し、追徴課税を課すことになります。税務調査官に国家権力の象徴のようなイメージを持っているかもしれませんが、実態はただのサラリーマン。成績を上げて上司から良い評価をもらうために頑張っているのです。

では、税務調査官にとっての評価ポイントとはいったい何なのでしょうか?それは「追徴課税をいくらあげられたか」です。さらに追徴課税の中でも最も評価されるのは、納税者からすれば一番負担の重い罰金である「重加算税」。税務調査官はなんとかしてこの重加算税を取ろうと、様々な手段を使ってきます。

その一つが、冒頭で挙げた「交渉」です。交渉の実例として多いのは、「いくつかある否認項目のうち、1つを重加算税の対象と認めるなら、他の項目は不問にする」というものです。例えばABCDEの5項目が否認されている時、「Aをワンランク罰則の重い重加算税に切り替えさせてもらえれば、BCDEについては不問とします」という交換条件を出してくるのです。

ただでさえ無駄な時間を取られている中でこのような提案を受けると、「早く終わるのなら」とこの交渉を受け入れてしまう方も多くいらっしゃいます。しかし、それは明らかに早計です。重加算税というのは最大で40%もの追徴金が課せられるので、延滞税などの付帯税も合わせると、場合によっては納税額が莫大になる可能性もあります。さらに重加算税は「わざと不正をした」場合に認められるものなので、一度重加算税を課せられてしまうと「常習の疑いあり」ということで税務調査の頻度、精度も高くなります。

このように重加算税を課されるというのは相当に重い罰則になります。しかし、だからといって重加算税を交換材料に使った交渉は即座に却下すべき、というわけでもありません。目安は納税額です。例えばABCDEのすべてが否認されたときの納税額が500万円で、Aのみ重加算税で後は不問となったときの納税額が150万円なら、検討の余地は十分にあります。税務調査官から交渉をうけた際には、その交渉を受け入れた時の税額と、受け入れなかった時に想定される最高税額を比べてみてください。

ブラックリストには入らないことを確認しよう

ただ、重加算税の恐ろしいところがその高い税率だけでないのは先ほども述べた通り。「常習の疑いあり」とされて頻繁に税務調査に入られるようなったり、必要以上に細かく調べられるようになったりするのも、重加算税の恐ろしいところです。一度重加算税を課せられたら、少なくとも3~5年以内には次の税務調査が来ると思ったほうが良いでしょう。また、その際の調査基準も、「また不正をしているのではないか?」と疑いの視点から開始されることになるため、普通なら指摘されないようなところでも厳しく責められることがあります。

しかし、これは重加算税を課せられた人や会社全てに適応されるものではありません。上記のような扱いを受けるのは、「不正の疑いあり」として税務署内の「ブラックリスト」に登録されてしまった場合のみです。逆に言えば、重加算税が課せられても、このブラックリストにさえ登録されなければそこまで大きなダメージはありません。(もちろん最大40%の追徴金は納めなければなりません)。

税務調査官から提案された内容が金額的に見て魅力的であるのなら、あえて受け入れて早く税務調査を終わらせてしまうというのも選択肢の一つです。その際には、ブラックリストに入らないことを税務調査官にしっかりと確認しましょう。もし「要注意として区分される」という返答が返ってきたら、交渉を受けない方が賢明です。

ただし、交渉相手は百戦錬磨の税務調査官です。あえて専門用語を使ったり、判断基準のすれすれのラインを攻めてきたりすることは十分に予想されます。税務に関する知識や経験に自信がある方以外は、税理士にお任せするのが一番だと思います。私たちも単発での税務調査対応をお受けしておりますので、普段から付き合いのある税理士がいない、あるいは顧問税理士はいるけど心もとない、という場合はお気軽にご連絡ください。

※記事に含まれる法令等の情報は、記事作成時点のものとなります。法令等は随時変わる可能性がありますので、本記事を実務に生かされる際には最寄の税務署か税理士へ確認してください。